売春を巡る2つの立場ー性道徳の是非


              19世紀末に生まれた2つの運動、志向性

        1、一夫一婦制に基づく「性道徳確立運動」

19世紀の後半、現在の世界を形つくる2つの思想潮流が生まれました。一つは、「一夫一婦制」に基づいて性道徳を確立しようとする運動で、「国際廃娼運動」へと発展して行きます。

キリスト教の信仰心に基づき、女性の道徳的向上に使命感をもっていたJ・バトラーは、売春婦の救済に力を注ぎました。バトラーは1875年に国際廃娼同盟を創立。国際廃娼同盟は、1886年にはイギリスの公娼制度を廃止をさせる事に成功しました。すぐにオランダ,ノルウェーデンマーク,スイスなどが相次いでこれにならい。ヨーロッパ世界の各国の売春婦の数は激減して行きます。

我が国日本でも、同様です。今日の日本には様々な都市に花街、遊郭跡が存在していますが、江戸時代以降日本中に発展して来た売春産業は明治維新後も「貸し座敷」と名を変えて発展し、世界一の規模を誇る売春大国となっていました。国際廃娼運動に影響を受けたキリスト教婦人矯風会救世軍等がほとんど乱闘に近い「廃娼運動」を展開し、戦後勝ちとって来ました。

これらの運動は一夫一婦制に基づく「性道徳確立運動」であると言えるでしょう。





バトラー【Josephine Elizabeth Butler】

1828‐1906
イギリスの社会改革者。農業改良や奴隷貿易廃止運動に貢献したジョン・グレーの娘。英国国教会の牧師ジョージ・バトラーと結婚。女性の道徳的向上に強い関心をもち,最初は女子の高等教育要求の運動にも参与するが,しだいに売春婦の救済に専念するようになる。警察の監視下で売春婦に定期検診を義務づけることによって事実上公娼制度を法的に承認した〈性病法Contagious Diseases Act〉(1864,66,69)の廃止を訴え,女性の全国的組織を先導。
https://kotobank.jp/word/%E3%83%90%E3%83%88%E3%83%A9%E3%83%BC-115482#E4.B8.96.E7.95.8C.E5.A4.A7.E7.99.BE.E7.A7.91.E4.BA.8B.E5.85.B8.20.E7.AC.AC.EF.BC.92.E7.89.88





        2、  性道徳破壊運動




19世紀後半、精神分析のフロイドは「性の抑圧が神経症の原因になる」という性理論を唱え始めました。

これについてはユングが批判的に述べているように、
●「フロイドは抑圧と抑制を混同しており」
●「神経症の原因は性に起因するもの以外にも多くある」のです。

またこのフロイドの理論の間違いは、フロイドの分析した患者に1人の完治者もいなかった事からも証明されうるでしょう。

このような欠点の多いフロイドの精神分析運動ですが、フロイド派は一種の疑似宗教のような態をなしながら、この「性理論」を存続・拡大して行きます。

フロイドの性理論の影響を受けた分析家たちは、個人の病から社会現象に至るまで、なんでも「性の欲求不満」に結びつけて考えるという特技をもっています。例えば、ヴィルヘルム・ライヒのようにナチズムさえ性的抑圧が原因に帰する人さえいる始末です(ファシズムの大衆心理』)。このような思想からは、社会に起こる全ての犯罪などの出来事は、「性の欲求不満」が原因であり、ゆえに全ての性の禁止、束縛を取り払おうとする方向性が生まれます。これがアメリカで引き起こされた「性革命」です。

20世紀後半、1950年代の終わりから1960代にかけて、ネオフロイド派の理論を元に米国で「性革命」が引き起こされます。「性の解放」と銘打ったこの運動は、「プレイボーイ誌」の発刊等をしながら、たちまちにして全世界を席巻しました。「性の自由」と言えば聞こえがいいが、要するに「性道徳破壊運動」に他ならない。


このようにして、19世紀の後半以来、性を巡る志向性の対立が起きています。一体何を「是」とし何を「非」とするか、日本はどういう方向に進むべきかを考える時期に来ているようです。