日本軍と阿片

 
日本軍と阿片--NHKスペシャル
 2008/08/18 00:07
NHKスペシャル「調査報告・日本軍と阿片」をみた。日中戦争当時、日本が中国で阿片を製造、販売していたことは知っていたが、これほどまでに手広くやっているとは知らなかった。本当に恥ずかしい次第である。
私の知っていたのは、中国人にケシを栽培させ、それを中国国内やその他の場所への密輸で日本の役人たちががっぽり稼いでいたこと、それらにかかわった人たちが、知らん顔してどうどうと日本の総理大臣になったり最高裁判事をしていたりすること、くらいの話だった。もちろんこれだけでも深刻な問題で、中国の人の中には「イギリスは阿片を持ち込んで国を破壊したが、日本人はその阿片を中国人に栽培させた。イギリス人が悪人なら、日本人は悪魔である」というようなことを言う人がいるのも当然である。しかし、今回のNHKスペシャルでは、これがどれほど大規模であったかが語られた。
◆ あまりに大規模な阿片栽培、販売
 日本が栽培させたケシ畑に従事する中国人は、100万人にも上ったといい、広大な農地で栽培がなされ、販売方法も密輸のみならず、日本軍が関与して阿片窟(阿片吸飲所。阿片バーみたいなところ)が経営され、ひどいところでは一つの都市に4000ヶ所もの阿片窟があり、その収益は関東軍に納められていたという。阿片窟が運営されていた大義名分は"一気に禁止すると、すでに中毒になっている患者が混乱するため"であったという。要するに今でいうと禁煙のためのニコチンガムのようなことを言っていたことになる。実際には、誰でも阿片窟に入店して阿片を吸飲することができ、その大義名分が全くうそであったことがわかる。蒋介石は中国に広がっていた阿片を禁止、追放しようとしたが、日本軍が占領した地域では人々がやっとやめた阿片がまた広がり始め、人口の8分の1ほどが中毒患者になるほど中国人が阿片漬けになったという。

大東亜共栄圏とは
 その阿片栽培が、中国に作った汪兆銘などの傀儡政権の財源となり、傀儡国家の予算の半分以上が阿片売買代金という、信じられないほどの阿片への依存ぶり、果ては幹部たちは"大東亜共栄圏建設の鍵は阿片政策"とまで言っていたという。この手段を見ただけでも、大東亜共栄圏という目的がどういうものであったかがわかる。占領地人民をぼろぼろにして骨までしゃぶり尽くす、資源は枯れ果てるまで盗む、これが大東亜共栄圏の本当の姿だったということだろう。
また、当時の国際社会では阿片などの麻薬を使って戦争の資金にすることに対する目が厳しく、世界から孤立していく日本の姿もよく描かれていた。日本は徹底的にうそをつき通そうとするのだが、諸外国はかなり正確に麻薬販売の実態をつかんでおり、日本を追いつめていく。非難する者の中にハル国務長官の名前があり、このハルについては後の太平洋戦争の開戦に関連して「アメリカが戦争を望んでおり、日本は引っかけられて日本側から攻撃するようにもっていかれたのだ」などとでたらめをいう人もいるが、100歩譲って仮にそうだとしても、ハルが日本軍の麻薬販売の実態を見て開戦を決意したのであれば、大いなる正義というしかないだろう。

◆ 軍は知らない?
国際社会の批判を浴び、阿片の流通は関東軍が直接関与するのではなく、民間人にやらせるようになった話も出てきた。あ、これだな、と思った人も多かったことだろう。こうやって従軍慰安婦も軍が行っているけれども民間人を隠れ蓑にしているだけで、民間人がやっていると言い逃れをする。番組では従軍慰安婦などについては特に言及しなかったが、制作者の意図としてはそれも感じ取って欲しかったのかもしれない。それでも日本軍はすべてを了解していて、敗戦の時には徹夜で証拠隠滅である。文書はもちろん、阿片を隠すこともぬかりなく。もしこれがばれたら言い逃れができない実態があばかれてしまう、と当時の担当者は日記に書いているという。ちゃんとわかっていたのだ。日本軍がそんなことしているわけがない、といまだに思いたい人もいるかもしれないが、日本軍自身が事態をきちんと認識していたのであって、日本軍が個々の場面で不適切な行動をしたとしても全体として正義であると思うのは残念ながらご神体のないがらんどうのお堂にお参りしてありがたがっているのと同じである。


◆ 少し残念なこと
番組では暴走した関東軍が、日本政府から十分な金がおりてこないからやむを得ずに手を染めた、と正当化にもならないいいわけをしていると思えるところもあった。実際にはもっと深く日本政府がかかわっていたのではないか、内務省とのかかわりはどうだったのか、などの突っ込みはあまりなかった。ただ、番組の良心であろうか、これにかかわった軍人や政治家、と一言だけ政治家の関与をにおわせていた。番組中で政治家について振れていなかっただけに、唐突な感じもあるが、これが当時の日本軍だけの問題ではなく、当時の政治だけの問題でもなく、これを隠し続ける現在の日本の病理であり、いまだに麻薬や偽札で資金を得て軍事行動をしている国があること、さらに今の日本がそれにどうかかわっているかを考えると、現在の私たち一人一人の問題でもあることを、むしろ投げ掛けてくれたような気もする