ヨガ道場滞在記

 日本にヨガを輸入した第一人者は、沖正弘と言う人だった。
 戦争中は軍の特殊機関にいたとかいう噂があり、結核をはじめ多彩な病歴を持っていたらしい。私がいたのはその沖ヨガ系の道場だったので、
何度か講演パーティーを手伝ったりした。ガリガリにやせておられたが、声に力があったのを記憶している。
 そこにはいろんな人々が出入りしていた。同僚のSは、毎日アルミで作ったピラミッドの中で瞑想していた。彼によれば、ピラミッドの中は特殊な空間であり、モノが腐らないのだと言う。「じゃあ、実験しよう」と言って私もピラミッドを造って果物を置いて様子を見た。この実験結果から言えばあまり効果はなかった。一度だけ、比較のために置いた外の果実より、干からびるのが早いように感じたのもあったが、おおむね無意味であった。
 この手の実験はいろんなバージョンが有って、「ラジウムを含むラドン石の上に野菜や果物を置くと長持ちする」とか「原生マコモを混ぜてご飯を炊くと冷えても瑞々しくて、腐りにくい」と言うのもあった。
 こうした実験は何度かやった。厳密に科学的な実験をした訳ではないが、それなりに効果もあったしかし貧乏だった私は、果物やご飯が腐っていくのを、みすみす見ているのに耐えられず、しばしば実験は途中で放棄された。
 科学の敵は腹の虫なのだ。